ロースクール生ブルネロ

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平成23年予備試験民法 参考答案 ※現行民法

Dは甲土地を占有するCに対し、所有権(206条)に基づく甲土地明け渡し請求をすることが考えられる。かかる請求が認められるには、Dが甲土地の所有権を有しており、かつCに甲土地の占有権限がないことが必要である。
1 まずDは甲土地の所有権を有するか。
(1) この点、AB間の売買契約(555条)はABの通謀によりなされた虚偽のものであり、無効であるため(94条1項)、Bは無権利者であり、無権利者Bからの譲受人Dは甲土地の所有権を取得できないのが原則である。
(2) もっとも、Dは94条2項の「善意の第三者」にあたり保護される結果、甲土地の所有権を取得しないか。
ア まず、94条2項の「第三者」とは、虚偽の意思表示の当事者またはその一般承継人以外の者であって、その表示の目的につき法律上の利害関係を有するに至った者をいうところ、Dは甲土地の登記名義人たるBと売買契約を締結しているのでこれにあたる。
そして、通謀して虚偽の外観を作出したという原権利者の帰責性の大きさからすれば、「善意」であれば足り、無過失は不要と解するところ、Dは通謀虚偽表示につき善意であり、これにあたる。
イ よってDは「善意の第三者」にあたり甲土地の所有権を取得する。
3 そうだとしても、CはBと甲土地の賃貸借契約(601条)を締結しており、甲土地の賃借権を有するため、Cに甲土地の占有権限があるといえ、Dの上記請求は認められないのではないか。
(1)  この点、BC間の賃貸借契約について、Bは契約当初甲土地につき無権利であり、債権的にのみ有効な他人物賃貸借といえ(559条本文、560条)、またCはAB間の甲土地の売買契約が仮装売買による通謀虚偽表示であることを知っていたため、「善意の第三者」にも当たらない。そのため無権利者Bからの賃借人Cは賃借権を取得出来ず、Dは上記請求が出来るように思える。
(2)  もっとも、その後甲土地の所有権者Aの死亡により、その唯一の相続人であるBが相続をしている。そこで、他人物売主Bと本人Aの地位が融合し、追認があったのと同じ効果(追完)が生じ、Cは甲土地の賃借権をDに対抗出来ないか。
ア (ⅰ)この点について、相続という偶然の事情によって相手方の取消権を奪うべきではないため、地位は併存すると解する。
  そうだとすれば、他人物貸主は本人の地位で追認拒絶することができるとも思える。
  しかし、他人物貸主の追認拒絶は先行する他人物賃貸行為と相容れず、信義則(1条2項)上、許されないと解する。
  (ⅱ)よって、Bは相続と同時にBC間の賃貸借契約の追認を強制される。
イ そして、他人物売買の追認においても無権代理の場合と比べて相手方を保護する必要性は変わらないため、無権代理に関する116条を類推適用し、本人の追認により契約時に遡って所有権は買主に移転すると解する。
ウ よって、Cは賃貸借契約当初から甲土地の賃借権を取得したことになり、また甲土地上の建物乙にC名義の所有権移転登記を有することから、甲土地の賃借権をDへ対抗し得る(借地借家法10条1項)。
エ もっとも、Dは116条但し書きの「第三者」に当たり保護される結果、Cは賃借権をDに対抗出来ないのではないか。
 (ⅰ)この点、同条但し書きの趣旨は追認の遡及効を制限する点にある。そして、BC間の他人物賃貸借をAが追認した場合、Bを起点としたDとCへの二重譲渡が生じることになるが、ここで追認の遡及効を制限しても甲土地の権利取得時期の先後に違いが生じるのみであり、不動産の権利取得の優劣は対抗要件の有無によって決まる(605条)ことから、かかる規定は意味をなさない。
 (ⅱ)よってDは同条但し書きで保護されず、上述のように賃借権の対抗要件を備えたCは賃借権をDに対抗出来る。
4 以上より、Dの上記請求は認められない。
                                      
以上